過ぎ行く風景
バツイチカケスのゆるゆる人生 BGMも交えて のんびりゆったり歩きます
いらっしゃいませ

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約束の地

The promised land









 僕は、仕事の資料に目を通し終えると、まわりを見回した。









 日曜日の昼下がり、休日の事務所は、さすがに人が少ない。


 


 それでも、不夜城と呼ばれる、この開発部の事務所には、休日でも、終電まで粘る技術者がいて、そこに、時折、徹夜組も混じる。


 今日も、日曜だというのに、何人かの技術者が、机にしがみついていた。


 


 


 僕は、椅子から立ち上がると、その中の一人に、歩み寄り、声をかけた。


  『今夜も、まだ、遅くなりそうですか』


 話しかけられた人物は、ディスプレイの数字データから目を離して、僕を見上げた。


  『… お、なんだ、今日、会社に、来てたのか』


 見上げた顔に、笑顔が混じる。


 かなり疲れているはずなのに、いつもの温和な表情は崩れていなかった。


 


 この人物は、僕が入社したときから、ずっと世話になっていた人物である。


 専門が違うので、直接の上司になることはなかったが、時折、一緒に飲みに行ったりもしていた。


 少々、歳が離れていて、言うのは気が引ける感じだが、僕の先輩にあたる。


 


 先輩は、恰幅の良い体を机から離して、書類に肘をついた。


 『外に依頼して入力してもらったデータに、ミスがあってなあ。 幸い、新聞沙汰にはならなかったんだが、お客様がお怒りでね。 まあ、明日の夜明け前には、タクシーを拾って帰ろう、とは思ってるよ』


 『大変ですね。ここのところ、立て続けじゃないですか』


 『ああ、まあ、いつものことだわ』


 先輩は、そう言って、苦笑いした。 


 


 その先輩の、疲れが隠せない顔に、僕は、少しためらったが、意を決して切り出した。



 『…実は、聞いて頂きたいことが、あるんです』



 先輩は、大雑把だが、妙に察しの良いところがある。 笑顔は崩さないまま、僕に向き直った。



 『… 人に、聞かれたくない話か?』


 『はい』


 『わかった』


 先輩は、机の上から、缶コーヒーを取り上げて、残りを飲み干した。


 『… 資料室へ行こう。 あそこなら、誰もいない』


 


 


 資料室の片隅の、小さな机の前に、僕と先輩は腰を下ろした。



 この先輩は、相談をしやすいタイプなのだが、僕が、この先輩を相談者として選んだのは、もうひとつ、別の理由がある。


 激務のため、妻子が実家に帰ってしまって戻らない、という話は、この開発部では珍しくない。 そのくらい仕事に打ち込んで、はじめて、仕事人として一人前、というような、妙な職人的雰囲気さえある。
 たいていは、妻子を実家に迎えに行って事を納め、後になって、夫婦間での笑い話になるようだが、この先輩だけは、少し違った。


 
 記入押印済みの離婚届を、実際に目の前に突きつけられ、すんでのところで、本当の離婚になるところだったのだ。




 


 僕は、妻が出ていく前後の経緯を話し、先輩に、対応の助言を求めた。


 僕の話を黙って聞いていた先輩は、目をつぶって、口を開いた。


 『だいたいの話は、わかった。 だが、… 俺の経験じゃ、アドバイスには、ならないかもしれないな』


 話し終えたまま、黙っている僕の顔を見て、先輩は、付け加えた。


 『… 事情が、少し、違うんだよ』


 『事情が、ですか』


 『ああ。 … 俺の場合は、原因がはっきりしてる。 嫁姑問題、だったんだ』


 先輩は、ポケットからボールペンを取り出して、手で、もてあそび始めた。


 『うちのやつは、俺のおふくろと同居してて、もともと、馬が合わないようだった。
 そこへ持ってきて、子供が産まれて、お互い、余裕がなくなった。 激しく、ぶつかってね。
 …そんなとき、俺は忙しくて、一週間に一晩くらいしか、帰れない日が続いた。 そんな中で、うちのやつは、追いつめられたのさ』


 『そうだったんですか。 … そこまでは、知りませんでした』


 『俺自身も、仕事にかまけて、そんな家庭から逃げていなかった、といえば嘘になる。  … まあ、ことの次第は、どうでもいい。
 とにかく、俺は、何度も突き出される離婚届を、はねつけ続けた。 そのうち、 … うちのやつの方が、折れた。 一時の激情だったのかも知れん』


 先輩は、天井を仰ぐような視線で、手にしたボールペンを、握りしめた。


 『だが、話を聞く限り、お前の場合は、少し、俺のときとは、違うようだ。
 お前の奥さんの行動は、感情にかられたものとも思えないし、どうも、かなり前から、準備されていたようなところがある。 感情で突っ走った、うちのやつとは違う。
 原因も、どうも、はっきりしない。 離婚ってやつは、旦那に原因があることも多いらしいが、お前とは長い付き合いだ。 お前が、暴走する性分の人間じゃないことは、俺が良く知ってる』


 椅子を回転させて、先輩は、僕の方を向いた。


 『申し訳ない。 … 俺には、うまいアドバイスが、できんよ』


 そのまま、少しの間、沈黙が続いた。


 僕は、頭を下げた。


 『… いえ、話を聞いてもらえただけでも、すっきりしました。
 忙しいところ、時間を取らせて、すみませんでした』


 『すまんな。 … 役に立てなくて』


 僕と先輩は、立ち上がって、狭い資料室の扉を開けた。


 そのまま、礼をして、別れようとする僕を、思いついたように、先輩が呼び止めた。


 『ああ、 … お前のところは、確か、子供が、双子だったよな』


 僕がうなずくと、先輩は、少し間をおいて、声をひそめた。


 『あまり、他にはしゃべらないんで欲しいんだが、参考になるかもしれん。
 … 実はな、もう一人、いるんだよ』


 『もう一人?』


 『ああ。 そいつはな、 … もうすぐ、一回目の調停が始まる』


 


 


 



 翌日の昼休み、会社の社員食堂で、僕は、窓際の空席に、定食を載せたトレイを置いた。


 目の前に座っていた同僚が、ちらりと、僕の顔を見上げる。


 僕は、笑顔で、その同僚に尋ねた。


 『どうも。 空いてますか、この席?』


 『… どうぞ』


 その同僚は、無表情に、小さな声で答えた。


 僕は、席に座ると、彼に話しかけた。


 『いや、参りましたよ。 先週末は、作成中の報告資料が、うっかり、ファイルの上書きミスで、一瞬に消えちゃいましてね。 お陰で、日曜出勤で作り直し。 ひどい目にあいましたよ』


 おどけて言いながら、僕は、彼の表情を見つめた。


 彼は、泳ぐような視線で、黙々と、定食を口に運んでいる。



 僕は、ちょっと、口調を変えて、トーンを落とした。


 『ずいぶん、疲れているみたいですね。仕事も大変そうですし』



 すると、突然、彼は、すっと、席から立ち上がった。


 『… 聞いているんでしょう。 私のことは』


 あまりにもストレートな彼の台詞に、僕は、一瞬、言葉を失った。


 『どうぞ、 … ごゆっくり』


 彼は、無表情のまま、自分の定食のトレイを持ち上げ、食器返却口へ歩き去っていく。


 ── 失敗したな。


 僕は、軽く唇を噛んで、窓の外を眺めた。


 
 


 彼とは、一度だけ、鹿児島へ、一緒に出張したことがある。


 弁の立つほうではないが、決して暗くはなく、落ち着いていて、周囲に信頼される人物だった。


 そのときの彼と、今の彼は、まるで、別人のようだ。



 僕は、昨日の先輩との会話を、改めて思い返していた。


 


 ── お前も聞いているだろうが、あいつにも、双子の子供がいる。


 ── ええ、お互い、大変だと、笑いあったこともありました。


 僕の双子が産まれたのは、彼の双子誕生の数ヵ月後だった。社内広報に、双子の誕生を並べて書かれて、彼と一緒に苦笑いしたことがある。


 先輩は、少し、真面目な顔で言った。


 ── ただ、お前と違うのは、その上にも、二人の子供がいる。
  つまり、四人の子持ちだ。
  食わせていくためには、奥さんも働かなきゃならん。
   で、子供を保育所に預けた。 夫婦、お互い、送り迎えを、融通しあう約束で、だ。

  ところが、お前も見ての通り、この職場は、不夜城の、激務状態だ。 保育所の送り迎えなんて
  できる状況じゃない。
  奥さんと、何度も衝突して、お互いのギャップが一気に爆発したんだな。
  あいつは、もう、元のサヤに戻るつもりはないらしいが、どうも、自暴自棄になっているらしい。
  ── 会社を辞めたい、というんだ。


 僕は、驚いた。
 自分でも、裁判所の養育費算定表は、何度か眺めている。
 しかし、見たのは、子供が二人までの表で、 ── 子供が四人の場合の養育費算定までは、とても見たことがない。
 だが、おおよその推定はつく。絶句するような金額だろう。


 ── ちょっと、待ってください。 四人の子供の養育費を支払うのに、いま、会社を辞めてしまったら
  どうしようもないじゃないですか。


 ── ああ。 俺たちも、それを心配してる。
  いま、あいつがいる部署は、厳しいが、幸いにして、残業代はたっぷり稼げる。
  人手不足の分野だし、少なく見積もっても、あと十年は安定して、そこそこの給料は取れる
  だろう。


 ── その安定を捨てて、転職ですか。 転職先から、高額の給料を提示されたとしても、それが
  安定して続くとは、限らないのに。


 ── 俺も、そう思ったよ。


  そう言うと、先輩は、ため息をついた。


 ── だが、あいつにとっての問題は、そこじゃないんだ。 ── 家族は、いなくなる。 何もかも
  失った自分に、首を絞めるような高額の養育費が、のしかかる。 ── あいつは、自分の
  人生が、終わっちまったと感じたんだな。
  何もかも、かなぐり捨てて、新天地を開拓する気になったらしい。
  俺は、あいつを引き留めるつもりだ。 だが、最後に選ぶのは、── あいつ自身だ。


 


 僕は、自分の拳を、強く握り締めた。



 僕は、たとえどんな状態でも、自分の人生を、家族を、諦めたりしない。 どん底に落ちても、守り抜かなければならないんだ。


 だから ── がんばれ。 たとえ辛いときがあっても、必ず明日はくる。 辛くても、投げやりになるな。 目の前の仕事を、投げ捨てるな。 夢の桃源郷、約束の地なんて、現実の世界にはないんだ ──。


 


 彼をつかまえて、僕は、この思いを、伝えたかった。


 


 


 



 それから二か月ほど経った、ある日。


 深夜、人気の少なくなった事務所で、僕は、彼の机の前に立っていた。


 


 


 机の上は、きれいに磨かれていて、


 ── そこには、もう、何も置かれていなかった。


 

 


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