過ぎ行く風景
バツイチカケスのゆるゆる人生 BGMも交えて のんびりゆったり歩きます
いらっしゃいませ

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氷河特急





氷河特急









 『すまないね。 …わざわざ早朝に、駅まで送ってもらって』


 


 父は、車から降りながら、僕に声をかけた。



 『いや、どうせ、今日は日曜だしね。 眠くなったら、二度寝でもするよ』


 車から、トランクを下ろしながら、僕は、軽口をたたく。


 『それより、向こうに着いたら、時差があるからね。 最初の一日は、はしゃぎすぎないで、体を慣らすようにした方がいいよ。 わかってると思うけど』


 『ああ、わかった』


 トランクを僕から受け取ると、父は、軽く、うなずく。



 僕は、手荷物を車から降ろして、母に手渡した。


 『留守の間、三日に一回くらいは、留守の実家の様子を見に行っておくから。 僕の家からは、車を飛ばせば、すぐだし。 心配しないで、楽しんできたらいいよ』


 『言われなくても、大丈夫。 私には、生まれて初めての海外旅行だしね。 充分、満喫させてもらうわ』


 そう言って、母は、笑った後、少し、声をひそめた。


 『本当は、そんな気分じゃないの。 … ごめんね、こんなときに』



 僕は、そんな母を笑い飛ばした。


 『それはそれ、これはこれ。 けじめはしっかりつけて、楽しむときにはしっかり楽しまないと。 人生、損だよ』


 僕は、車に乗り込んで、窓を開けた。


 『成田空港行きの列車は、15分後くらい後に発車だっけ。 早めにホームへ行って、乗車位置を確認しておいたら』


 『そうね。 じゃ、早めに、行きましょうか』


 母は、父と、お互いに顔を見合わせた


 『戸締りと火元の確認、もう一度だけ、お願いね。 10日の間、留守にするから』


 『心配性だね。 このあと、すぐに実家に寄って、確認してから帰るよ』


 父と母は、僕に手を振って、駅の改札に向かって、歩き出した。


 


 僕は、二人の姿が駅の改札口に消えるのを確認してから、小さくため息をつく。


 ── ひとつ、やるべきことが、片付いたな。


 
 僕は、車のハザードランプをウインカーに切り替えて、車を滑り出させた。


 


 


 


 実家の前に車を止めた僕は、約束どおり、戸締りと火の元を再確認するために、実家の鍵を開ける。


 一時間前まで、あわただしく両親が旅の準備をしていた実家の中は、先刻の騒ぎが、嘘のように、静まり返っていた。


 台所で、ガスの元栓を確認し、ひととおり戸締りと電気のスイッチを確認したあと、僕は、居間のソファーに、ぐったりと体を横たえた。


 さすがに、早朝の三時半起床は、体にこたえる。 猛烈な睡魔が僕を襲っていた。


 このまま、ソファーで、ひと眠りしていこうか。


 そう思った僕は、何か枕の代わりになるクッションがないか、まわりを見回した。



 そのとき、── ソファー横のテーブルの下に、子供たちのおもちゃ箱が、隠しているかのように、置かれているのに気づいた。


 僕は、何気なく、半身を起こして、その箱の中から、一番上に入っていた、絵本を取り出した。



 タイトルは、「あり の あちち」── まだ、ようやく一才になろうという、双子の孫たちのために、両親が初めて買ってきた絵本だ。


 当然、子供たちは、本の言葉の意味を理解できようはずもなかったが、母は、まるで紙芝居のようにして、孫たちに絵本を広げ、何度も何度も、読んで聞かせていた。


 『にんげんの いえのなかに しのびこんだ ありは、すーぷの はいった なべに さわって しまいました。
  あちち、あちち──』



 その、あちち、あちち、という台詞を、母は、面白おかしく、身振り手振りを交えて、孫たちに聞かせていた。


 孫たちは、意味もわからないまま、ただ、その口調や身振り手振りが可笑しかったのだろう、神妙にして、何度となく、母の語りに聞き入っていた。




 その孫が、突然、老親の手から、失われていったのだ。


 とても、海外旅行なんて、そんな気分ではないだろう。


 そうだ。 そうだな ── 。


 僕は、今更のように、つぶやいていた。


 


 


 


 


 ── スイスへ、一度でいいから、行ってみたい。


 それが、山好きだった母の、昔からの口癖だった。


 ── 行けばいいじゃないか。 別に、僕と兄さんに、気を遣うことは、なにもないよ。


 そう答える僕に、母は、いつも、笑って答えたものだった。


 ── 飛行機なんかに乗ったら、事故が怖いでしょう。
 あなたたちが、一人前になって、家庭を持って、子供が出来たらね。 それまでは、お預けよ。


 飛行機事故での死亡率が、自動車事故での死亡率よりも、はるかに低いことを、口を酸っぱくして言っても、母の気持ちは、頑として動かなかった。


 


 そして、僕は結婚し、夫婦に、子供が誕生した。


 そのとき、母は、生命のバトンを次の世代に渡し、責任を果たした、と思ったのだろう。 父とともに、熟年向けのスイス旅行ツアーに、こっそりと申し込んでいたのだ。


 


 その出発まで、あと1ヶ月と迫っていたときだった。


 突然、妻が、子供を連れて、出て行ったのは。


 


 


 


 その直後、僕が、両親のスイス旅行の計画を知ったのは、まったくの偶然だった。


 実家に寄って、気分転換に新聞を広げようとしたとき、隠してあったスイス旅行ツアーのパンフレットが、テーブルから落ちたのだ。


 拾い上げたパンフレットには、キャンセルの項目に、丸印がつけられていた。


 何の責任もない両親が、孫を奪われた上、長年の夢だったスイス旅行を、棒に振ろうとしている ──。


 僕は、すぐさま、スイス旅行をキャンセルしないよう、両親を説得にかかった。


 


 ── だって、こんなときに、海外旅行なんて、してる場合じゃないでしょう。


 
 母は言った。


 違う。 僕は歯ぎしりした。 こんな時だからこそ、必要なんだ。


 


 スイスといえば、もうすっかり観光地として、日本にお馴染みだが、それは、一般の健康な人間に向けてのことだ。


 登山電車やロープウェーで、かなりの標高差を一気に上下する旅行は、不慣れな高齢者にとっては、ある程度の、危険が伴ってくる。 展望台で、倒れたという話も、ちらほらと聞く。


 両親も、適度の運動をたしなんでいるとはいえ、高齢といってもおかしくない歳だ。 今回が、あるいは最後のチャンスかもしれない。


 僕のトラブルに付き合って、長年、目標にしてきた夢をふいにして、あきらめることはない。


 それに、ショックを受けている両親には、何よりも ── 心の休養が必要だ。


 


 渋る両親を前に、僕は、無理やりこじ付けた言葉を、強く言い放った。


 


 ── 僕のことを気遣ってくれるなら、旅行へ行って欲しい。 僕のために、旅行をあきらめるなんて、僕に、これ以上、重圧をかけないで欲しいんだ。
  旅行へは行って欲しい。 夢を楽しんできて欲しい。 ── いま苦しんでいる、僕のために。



 僕のその言葉が、最後だった。


 両親はもう、それ以上、何も言わなかった。


 


 


 


 『それでね、チューリッヒの空港のカウンターを出たら、真っ先に売店に走ったのよ。 なにしろ、チップって、小銭が必要でしょう? 店の人に、ハロー、って言って、チョコを一個、必死の思いで買ったの。 そうしたら、添乗員の人に笑われちゃってね ── 』


 10日ぶりに帰国した母は、満足そうにうなずく父と、顔を見合わせて、陽気に笑った。


 『それで、成り行きで、軽く、トレッキングも、してきちゃったのよ』


 『えっ、山歩きしたのか。 無理は絶対だめ、って言ったのに。 海外は、ただでさえ、疲れるんだから』


 僕は、軽い突っ込みを入れながら、相づちを打っていた。


 『大丈夫、大丈夫。そんなに長い距離じゃないの。 ほら、この写真。 道端に、エーデルワイスが咲いてるのが見えるでしょう』


 帰国した、その足で現像に出した写真を、僕に見せながら、スイス旅行の話は、尽きることがなかった。


 


 楽しそうに話す両親を見ながら、僕は、無理に旅行に追い出して、本当に良かった、と感じていた。


 少しの間でも、孫のことを忘れて、長年の夢だった旅行が、いい思い出になってくれたのだ。


 もう、それだけで、充分だった。



 僕は、束になった写真を一枚一枚、めくりながら、話を聞いていた。


 写真をめくると、車体の赤が印象的な、列車を写した写真が出てきた。



 『えーと、これは? この列車は』


 僕が尋ねると、母は、愉快そうに大笑いした。


 『これはね、ほら、あれよ、グラス・エクスプレス、だったかしら』


 母が、父に話を振ると、父は笑って、グラッシャー・エクスプレスだろ、と訂正した。


 『そう。その、グラッシャー・エクスプレス ── 氷河特急、って言って、とても有名な特急なのよ。 世界で一番、遅い特急なんですって』


 母は、楽しそうに、続けた。



 『それでね、可笑しいのよ、この特急の食堂車で食事したんだけど、そこのウェイトレスさんがね、熱い料理を持ってくるときにね、日本人には、熱いから気をつけなさい、って言う意味なんでしょうね、
── アチチ、アチチ、って言うのよ』


 


 あちち、あちち。


 


 ── それを聞いた瞬間、僕は、はっとした。


 心臓が一瞬にして、凍り付いていく。


 


 その言葉は、── 母が、孫たちに買った初めての絵本で、孫たちに、ジェスチャーたっぷりに、読み聞かせていた言葉ではなかったか ──。 


 僕は、自分の楽しそうな表情を崩さないよう、必死になったまま、心の中で、氷河特急を呪った。


 


 『それでね、見てると、日本人には、みんな、そんな風に言ってるの。 だれか日本人が言ったのを聞いて、覚えちゃったのね。 可笑しいったらないの。 あちち、あちち、 って、あっちこっちで ──』


 


 母は、相変わらず、明るい口調で話し続けている。


 
 けれど、その笑顔の瞳の奥には、深い、深い悲しみが、読み取れるような気がした。


 父に目を向けると、笑顔のまま、── 下を向いている。


 


 



 母は、食堂車から戻った後、どんな気持ちで、氷河特急の車窓を眺めていたのだろう。


 


 



 話題は、すぐに次の写真へと移り、スイスの土産話は、その晩、遅くまで続いていた。



 


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