過ぎ行く風景
バツイチカケスのゆるゆる人生 BGMも交えて のんびりゆったり歩きます
いらっしゃいませ

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夕映えのブルース

夕映えのブルース







『―― らしく、ないなあ』



 僕は首をかしげて、ダイニングテーブルの上に頬杖をついた。



『そうなのよ、お父さん、ずっとあんな調子なの。 ―― 医者に行きましょう、って言っても、このままでいい、って』



 湯飲みを両手で包み込んだ母は、ため息をつく。


 


 


 父が夏風邪をひいて寝込んでから、もう2週間になる。


 少し寝ていれば治る、と楽観していた母も、さすがに心配になったらしい。


 車で医者へ連れて行ってくれないか、と僕に頼んできたのは、つい今朝、土曜日の朝のことだった。


 


 


 寝室の父に顔を出そうとする僕を、母は、父はいま寝ているから、と押しとどめた。


『とにかく、父さんの顔を見てくるよ。 様子がわからないんじゃ、どうしようもないからね』


 心配そうな母を励ますようにして、僕は、実家の2階の寝室へ向かった。


 


 


 寝室のドアを開けると、カーテンが閉め切られていて、部屋は薄暗かった。


  ときおり、思い出したように吹き込む風が、カーテンを揺らして、夏の夕陽を覗かせる。


  僕は、物音を立てないように、父の枕元へ近寄り、父の側にかがみ込んだ。


  そのとき、ふと、父の眉が、動いた。


 僕は、ささやき声で、父に語りかけた。



『―― 父さん、起きてる?』



 父の眉が、また動いて、かすかな声がした。



『―― ああ。カケスか』



 それきり、父は、何も話そうとしない。


  僕は、黙って、掛け布団から出ている父の手を取って、布団の中に戻そうとした。


  その、掴んだ父の手首の細さに、僕は心の中で、一瞬、たじろいだ。



『―― あとで、また来るよ。しばらく、休んでいて』



 僕は、それだけ父に言うと、そっと寝室をあとにした。


 


 


 1階のリビングに戻ると、僕は、母にたずねた。



『2週間、寝込んでるっていうけど、―― 食欲は、どう?』


『それが、ほとんどないのよ。 お粥を作っても、いらないって断られちゃって』



 僕は、唇をかんだ。



『だからか。 ―― 手首が、すっかり痩せて、細くなってるよ』


『でしょう。 なのに、病院へ行かないって、がんばるんだから』



 母も、肩を落としている。


 このままでは、体力的にまずい。 僕は、市の医療施設案内の冊子を手にとって、ページをめくり始めた。



『とにかく、すぐにでも医者に行かなきゃ、風邪どころか、体全体がダウンしちゃうよ。 点滴でも打って、栄養を補給しないと。 ―― ええと、夜間診療所なら、夜の8時から開いてる。 8時まで待って、そこに行こう』


『ええ、じゃ、すぐに支度するわね』



 母は、あわただしく立ち上がる。


  そして、ぽつり、とつぶやいた。



『ふだんは、あそこまで頑固な人じゃないのにねぇ』


 


 


 


 早めに到着した夜間病院は、思いがけず、空いていた。


 車から降りた父は、歩くのも辛そうに、僕に抱きかかえられるようにして、待合室の椅子に座った。


 すぐに、看護師さんが、症状を軽く問診し、母と一緒に、父を診察室に招き入れた。


 


 


 診察室の椅子に残された僕は、待合室の白い壁を見ながら、さっき触れた、父の手首を思い返した。


  そういえば、父の手に触れるなんて、ずいぶん長い間、なかったことだった。


 


 


 


 もう、ずっと昔のことだ。


  父は、日曜日の夕方になると、決まったように、レコードプレーヤーのスイッチを入れた。


  部屋の電灯をつけず、カーテンを開けたまま、ドーナツ盤のレコードをプレーヤーに置き、針を落とす。


  落ちていく夕陽が差し込む部屋の中、トランペットのブルースが、古いスピーカーで鳴っていた。


 時には、雑誌を読みながら、音楽を聴いていることもある。



 ―― もう、お父さん、暗いわよ、目を悪くしたら、どうするの。



 夕映え色に染まった部屋に流れる時間は、たいてい、そんな母の言葉で、終わりを告げるのだった。


 


 


  あるとき、まだ小さかった僕は、レコードに聞き入っている父の手を引っ張りながら、聞いたことがある。



  ―― ねえ、お父さん。 お父さんには、お母さんが、ふたりいるって、本当なの?



 その瞬間、僕に引っ張られていた父の手が、一瞬、震えたように感じた。


 いつもなら、にこやかに返事をしてくれる父が、そのときだけ、返事をしなかった。


 僕は、ただならぬ気配を感じて、父のそばを離れた。


 


  そのあと、僕は、母から注意を受けた。



  ―― お父さんに、それを言ったら駄目よ。



  ―― どうして?



  僕は、わけもわからず、母に問いかけた。


  母は、諭すように、僕に顔を近づけて、言った。



  ―― お父さんの本当のお母さんはね、体が弱かったの。 だから、お父さんのお父さんと
    離婚して、別のお母さんが来たのよ。


 ―― りこん、って?


 ―― おわかれすることよ。 とにかく、お父さんに、そのことを言ったらいけません。
    わかった?


  ―― うん。



  まだ幼かった僕は、よく意味もわからず、ただ、言ってはいけないこと、とだけ、頭に入れた。
 
  それ以来、家の中で、父の両親の離婚の話は封印され、一度も話題に出ることはなかった。


 


 


 その封印は、数十年後、あろうことか、父自身の口で破られた。


  僕の妻が出て行った直後、父は、妻の携帯に直接、電話をかけ、説得しようとしたのだった。



 ―― あなたにも、いろいろと思うところがあるのは、良くわかる。 でも、子供たちのことも
    考えて、いま一歩だけ踏みとどまって、考えてはくれないか。
    ―― 私の両親は、離婚している。



 たまたま、そばで聞いていた僕と母は、その一言を聞いて、凍りついた。


  絶対に、父の口からは、出るはずのない言葉が、いま、この瞬間、引きずり出されている。



 ―― 親の離婚で、子供である私が、どれだけ辛い、悲しい思いをしたことか。
    あなたも、考えに考え抜いた末の結論だと思う。 しかし、いま、あなたには、
    子供たちがいる。 その子供たちが ――



  父の言葉は、そこで、止まった。



  ―― 電話、切られたよ。



 父は、電話の受話器を置くと、小さく、ため息をつく。



  ―― 風呂にでも入ってくる。



 ぼそっと、一言だけ残して、父は、部屋を出て行った。


 


 残された僕と母は、言葉を失ったまま、ただ、居間のソファーに座っていた。
 
 僕は、妻と父から、二重のショックを受けたような気分だった。



  ―― 僕も、顔でも洗ってくるよ。



  そう母に告げて、僕も、洗面所に向かった。


 


 


 洗面所には、浴室にいる父のシャワーの音が、響いていた。


  洗面所の蛇口を捻ろうとした瞬間、僕は、シャワーの水音の中に、微かに、鼻をすすり上げるような音を、聞いたような気がした。


 


  僕は、そのまま、物音を立てないように、そっと洗面所を離れた。


 


 


 


『――お待たせ』



 顔を伏せていた僕の上から、突然、声がした。


 僕は、はっと我にかえって、顔を上げた。 母が、診察室から出てきたところだった。



『風邪は、大したことはないらしいわ。 軽く薬を出してくれるらしいけど。 あと、栄養が不足してるから、点滴を打ってもらえるんですって。 40分くらいかかるわ』



 母は、僕の隣のベンチに座り、ハンドバッグを、膝の上に置いた。



 僕は、背伸びをしながら、母に聞いた。



『―― 食欲がないのは、風邪のせいだって?』


『ううん、最近はやりの風邪では、そんな症状はないらしいんだけど。 ―― 先生は、夏バテじゃないか、って』


『夏バテ、か ――』



 ―― 違う。夏バテなんかじゃない。


  僕には、父の心境が、痛いほど良くわかっていた。


 


 


 


  父は、その翌日、ずっと眠り続けていた。


  夕方も近くになって、ようやく目を覚ました父は、お粥を少々、口にした。



『気分はどう?』



 僕がたずねると、父は、微かに笑って、小さな声で言った。



『点滴か、あれをやってから、ずっと楽になった』


『だから、もっと早めに病院にかかれば、楽だったのに。 病院も、生きるための道具だからね』


『うん。 点滴は良い。 これからも、ちょくちょく打ってもらうようにしよう』


『冗談でしょ。 あと2回くらいは、通院で点滴、打つかもしれないけどさ』


 僕は、立ち上がって、カーテンを開いた。
 
  夏のオレンジ色の夕陽が、部屋の布団の近くまで差し込んで、父は眩しそうに目を細めた。



『―― それは?』



 僕が、父の枕元に置いたものに、父は初めて気付いたようだった。


  僕は、ちょっとおどけるように、答える。



『レコードプレーヤーだよ。 僕が、前に使ってたものをひっぱり出した。 針がちょっと、いかれてるけどね。
 あと、3、4日は安静に寝ていたほうがいいそうだから、暇つぶしに使って』



  僕は、居間から持ってきたレコードの束を、父のそばに置いた。


 父は、レコードの束から、一枚、ドーナツ盤のジャケットを手にすると、じっと眺めた。


 そんな父を見ながら、僕は、そっと、立ち上がった。



『僕は明日、会社だから、もう行くよ。 もし何かあったら、連絡をくれるよう、母さんには言っておくから。 
 ―― じゃ、無理しないようにね』



 父の答えを待たず、僕は、軽く右手を上げて、寝室のドアを開け、部屋から出た。


  夕映え色の寝室のドアを後ろ手に閉めると、僕は、目をつぶったまま、しばらくドアにもたれかかっていた。


 


 ―― すまなかった、父さん。


 


 


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