過ぎ行く風景
バツイチカケスのゆるゆる人生 BGMも交えて のんびりゆったり歩きます
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咲きに咲くらん(4)

 こんにちは、カケスです。


 このお話は、僕が10代のころに書いたもので、5話シリーズの4話目です。


 詳しいことは、前書きの記事があります155ので、どうぞ、まずは、こちらをご参照ください。


 


157桜の樹に寄せて


 


 1~3話目は、こちらになります155


 


157咲きに咲くらん(Ⅰ)


157咲きに咲くらん(Ⅱ)


157咲きに咲くらん(Ⅲ)


 


 え~、このシリーズは、キッパリ!フィクションです (← 強調)。


 ゆめゆめ、現実のマスターと混同されませんよう…(涙)






 





 



 


 


 僕の肩に、ふと小さな花びらが舞い落ちてきた。
 そっと手に取ってよく見ると、それは小指の爪くらいの紙切れだった。


 
 


 「なにしてる」



 目白が僕の肩をつついた。 僕ははっと我にかえる。 まわりの雑踏の音。



 「いや。 これが落ちてきてきたから」


 「何?」



 僕は目白の手の上に、さっき肩についたものを落とした。 目を細める目白。



 「紙切れ? これがどうかしたのか」


 「別に、どうでもないけど」


 「なんだよ」



 目白はじれったそうに顔をしかめて、僕にその紙切れを返した。


 一息ついてから、僕は答える。


 「・・・・一瞬、桜の花びらかと思ったんだ」



 「桜? まだ桜が咲いてないのに、花びらが散るわけないだろう」



 つき合っていられないというように、目白はさっさと歩き出す。


 僕はそのまま立ち止まって、人差し指の上にその紙切れをのせてじっと見つめた。
 ノートの切れはしだったらしく、薄い灰色の罫線の跡がある。



 「おい、いつまでもそんなところでぼーっとつっ立ってるんじゃない」



 目白が前の方から大声を出す。 僕はまわりを見回した。 南校舎と体育館の間の渡り廊下は、明日の卒業式の予行演習を終えた三年生でごった返している。


 僕は紙切れを持った手を大きく開いた。


 寒さの緩んだ弱い風が、紙切れをさらっていく。 紙切れはいったん茶色の地面に落ちて、風に転がされるようにして雑草の中にまぎれる。


 そこの雑草をずっと見つめていたら、いきなり右腕が引っ張られた。
 目白がいつのまにか戻ってきて、僕の横に立っている。



 「継美と飛鳥が先に教室行って待ってる。 遅いとまた飛鳥がヒス起こすぞ」


 「それは、まずいよ」


 「だったら早く行くことだな」


 「はいはい」



 僕は目白の後ろについて歩き始めた。 昼下がりの日差しが、まだ弱々しく横から差している渡り廊下。


 南校舎に入る直前に、さっき紙切れが消えたあたりを振り返る。


 あわい桜色の紙切れはもうどこかに行ってしまっていて、雑草がかすかな風にそよいで揺れていた。


 


 


 


 教室の中はいつもの倍くらい騒がしかった。 クラスのみんながこぞって自分の荷物を片付けている。 ロッカーやら自分の机の中から持って帰るものをかばんの中にしまい、必要ないものは後ろのゴミ箱に放り込む。 おかげでゴミ箱は使い古しの上履きやら、汚れた体操着であふれかえっていた。


 飛鳥がドアの横で僕たちをつかまえる。



 「遅かったわね、途中でどこか行ったのかと思ったわよ」


 「ああ、掛須がまたトリップしてたせいだ」



 目白が親指を立てて僕の方に向けた。



 「また掛須くんなのぉ? しょーがないわね」


 「まったくだ。 ・・・・明日の卒業式にはちゃんとしてくれよ。校長から卒業証書を受け取るときにぼーっとしてたら、目も当てられないからな」


 「わかった、わかった」



 僕は生返事をすると、自分の机の方に向かった。


 机の中には、置きっぱなしにしてあった教科書がぎっしり詰まっている。実際、何の教科書が机の中に入っているのか自分でもわからない。


 かばんの中から紙袋を取り出してそれを広げると、机の中から一冊ずつ教科書を引っぱり出す。


 ほこりをかぶった、日本史の教科書。
 ページの隅がらくがきだらけの古典。
 コーヒーをこぼした跡のある、微積分。 このコーヒーのシミは、飛鳥がふざけてこぼしたものだ。 代償に、コーラ1缶もらったのを思い出す。


 硫酸で焼けて表紙が黒くなった化学。
 赤いアンダーラインだらけの英語ⅡB。
 最初の5ページしかめくってない、でる単。
 背表紙がほつれかけた現国。いつも教科書の上にうつぶせて寝ていたから、装丁が痛んでしまったらしい。


 それから、中間・期末テストの答案がぞろぞろ出てくる。 全部点数が記入してある端を三角に折り曲げて友達に見えないようにしてある。 そんなに気をつかっていていながら、その答案を机の中に置きっぱなしにしてあるあたり不用心で情けない。 持って帰って親に見せるのは論外だけれど。


 ひとつひとつ片付けていくうちに、机の中から二つ折りにした古い紙が床に落ちた。
見覚えのない、黄ばんだ紙。


 左手でそれを拾い上げて、そっと開く。
 そこには、小さな花が描かれていた。4B鉛筆のデッサン。 そばを通り過ぎても気付かずにいてしまうような、そっと咲いている、かりそめの小さな花。



 「なに、それ」



 突然声がしたので、僕は驚いて顔をあげた。 飛鳥が前に立って、僕の手元をのぞき込んでいる。


 「・・・・なんでこんなのが僕の机の中に入ってるのかな。 覚えがないなあ」


 「どれどれ」



 僕の机の両側に手をついて、飛鳥は身を乗り出す。 そのままちょっと見ていると、飛鳥が急に思い付いたように表情を和らげた。



 「あ、これねー、継美の絵よ」


 「継美の?」


 「だって、右すみにサインが入ってるじゃない」



 僕はあわてて絵に視線を走らせた。 確かにローマ字の筆記体でつぐみと書いてある。



 「ほんとだ」


 「そのくらい気がついてよねー。 ・・・・でも、サインが入ってなくても継美の絵ってわかるけど」



 僕は飛鳥の顔を見上げた。



 「どしてさ」


 「だって、そんな絵描くの継美くらいなもんじゃない。 誰も見向きもしない雑草とか石ころとか、小さな花とか、継美のお家芸だもん」


 「ふーん」



 もう一度、僕は絵をじっと見つめた。


 鉛筆描きのせいかも知れないけれど、そっと手を触れたら消え入ってしまいそうなほど、この小さな花は、はかなく見えた。
 遠くで見ないふりをしているにはあまりに哀れで、近寄り過ぎれば無くなってしまいそうな。



 「継美からもらったんでしょ。 その絵」 



 飛鳥が絵を指さす。 僕は絵をぱたんと閉じた。



 「忘れた」


 「ふつう、覚えてるもんよ、人から物もらったときは。 つめたいわねー」


 「んなこと言ったって、覚えてないんだから」


 「継美に聞けば分かるんじゃない? 継美ーぃ!」



 飛鳥は両手を口のまわりにそえて、大声で継美を呼ぶ。 まわりにいた連中が驚いて僕たちの方を振り返った。 思わず赤面。
 ロッカーのところにいた継美が、こっちの方に歩いてくる。 無表情のまま。



 「ねー、継美、この絵どうしたの」



 飛鳥が僕の手からさっと絵を奪い取って、継美の目の前に差し出す。 それを受け取って、じっとながめる継美。


 しばらくして、継美が小声でつぶやいた。



 「・・・・この絵、わたし、捨てたはずなんだけど」


 「えー?」



 継美はゆっくりと飛鳥に絵を手渡す。 飛鳥は首をひねってから、僕の方を向いた。



 「掛須くん、どーいうこと?」


 「ええと」



 継美まで僕の目をじっと見る。 飛鳥ににらまれてもぜんぜん平気だけれど、継美の視線はどうも苦手だ。 あわてて頭の中の記憶をひっくり返す。


 そういえば。



 「・・・・たしか、美術室のゴミ箱に捨ててあったから、もったいないと思って拾ってきたんだったかな」


 「駅でゴミ箱の新聞あさってるサラリーマンみたいな真似しないでよねー」



 飛鳥があきれかえったように言った。



 「だって、いい絵だと思ったから、拾ったんだ」


 「情けないのー。 ねー、継美・・・・あれ、いないじゃない」



 飛鳥の声に、僕も継美のいた方を見た。 いない。
 あわててまわりをさがすと、継美はいつのまにかロッカーの前に戻って荷物の整理をしている。 僕たちのそばから動く気配もなかったのに。


 風みたいな女の子だ。 気ままに動きまわっていて、どこにでもいるくせにつかみどころがなくて、ふだんはその存在にさえ気がつかない。



 「なんだ、まだ荷物の整理してるのか」



 いきなり気取った声が横からした。 例のごとく、目白だ。



 「なによ、目白くんはもう終わったの?」


 「飛鳥や掛須のような凡人と一緒にしてもらっては困る。 俺は数日前から計画的に整理をしていたんだ。 今日の荷物はこれだけだな」



 小さなかばんをかるがると持ち上げてみせる目白。



 「掛須はまだまだ時間がかかりそうだな。 飛鳥は済んだのか」


 「それなんだけどねー」



 飛鳥はにっこり笑って、自分の机の横を指さした。 机のまわりに、はち切れそうに大きな特大紙袋が、四袋。 目白がうなった。



 「なるほど」


 「よくあれだけ貯めたもんだね」



 僕が感心しながら言うと、飛鳥はこびるような手つきをする。



 「私の家まで持って行ってくれるでしょー、掛須くんと目白くんで」


 「御免こうむる」


 「あ、目白くん、冷たーい」


 「人間とは本質的に冷酷なものだ」


 「いいじゃなーい。 うちでダージリン出してあげるからぁ」


 「ピザまん付きなら考えてもいい」


 「けち!」


 「嫌ならかまわん。 さあ、掛須、整理が終わりしだい帰るぞ」


 「わかったわよぉ。 ピザまん、つけるから」


 「上等だ」



 目白はさっさと飛鳥の机の方に歩いていって、紙袋の一つを手に取った。 僕も飛鳥に引きずられて、袋を一つ持たされる。



 「どうせだから、四人でうちで卒業イブのお茶会しない? 継美も呼んで」



 飛鳥が何気なく言った。 卒業、という言葉がやけに僕の胸をつく。



 「そういえば明日で高校生活も終わりか。 当り前だが」


 「いいでしょ。 やろ、やろ。継美も呼んで」


 「まあ、いいだろう。 つきあってやる」



 大げさにうなずく目白。 その態度に、飛鳥が変な顔をする。



 「継美を呼んでこい」


 「なにいばってるのよ。 継美、そこにいるでしょ」


 「ついさっき、また絵を描きに行った」


 「素早いわねー」


 「ほら、掛須、呼んでこい」



 いきなり僕の方に向きなおって、目白が言った。



 「何で僕なのさ」


 「掛須と継美は、どことなく似てるからな」


 「それが理由?」


 「その通り。 類は友を呼ぶ。 ゆえに継美を呼ぶのは掛須だ」


 「んな!」


 「わあー、ありがと、掛須くん! じゃ、先に行ってるからねー」


 「・・・・決められてしまった」


 「過ぎたことを悔やんでもしょーがないわよ。 ついでに森田食料品店でピザまん四個買ってきてね。 忘れないでよお」


 飛鳥に思いきり背中を叩かれて、僕はせきこんだ。 そのまま笑いながら教室を出ていく飛鳥と目白。


 僕は半分ふてくされて、机の中の教科書を荒っぽくかばんの中に突っ込むと、飛鳥の置いていった紙袋を右手に持つ。 結構な重さだ。


 紙袋を引きずるようにして、ドアへ向かう。


 教室の中には、昨日掃除したにもかかわらず、ほこりが舞い上がっている。 それは普段と変わらないのだけれど、黒板の横や壁からは掲示物がすべて取り払われていて、嫌でももう自分たちの教室ではないのだと感じさせる。 僕たちの時代は終わったのだと。


 黒板の隅に、小さな文字。 ── 卒業まで、あと1日。


 


 


 


 高校のそばの森田食料品店からピザまんの暖かい袋をかかえて正門を入ると、右手の林の中に相変わらず継美が座り込んでいる。


 もう、見慣れた光景だ。何か月も前から、継美はこうして絵を描き続けている。 美術部が外で写生をしているのは珍しいことではないから、誰も気にも止めないけれど。


 継美がここで絵を描き始めたころは、まだ北風が荒れ狂う前だった。 それが今はもうすぐ春風が吹こうとしている。 まだ弱々しいけれど、確実に暖まっていく風が林の中に吹いている。 やっと目をさましかけた日差しとともに。


 僕はゆっくりと継美の方に歩み寄った。少しためらってから、そっと継美の後ろ姿に声をかける。



 「もうほとんど完成みたいだね、その絵」



 チューブから白い油絵の具を押し出していた継美が、振り返って僕を見る。



 「うん。 今日で終わり」


 「飛鳥の家でお茶会やるんだってさ。 卒業イブの。 継美も来れる?」


 「いいよ。 あと少しだけ待ってて」


 そう言うと、継美は絵の方に視線を戻した。僕も絵に目を向ける。


 薄桃色の桜の絵。 満開の、狂ったように咲く桜。 全身からあらんかぎりのエネルギーを発散して、次の瞬間にはもう燃え尽きてしまいそうな、そんな刹那的な桜。


 そんな継美の桜の絵には、どことなくぞっとするものがあった。 一体このおとなしい継美のどこからこんな絵が出てくるのだろうか。 ただの絵だとわかっているのに、見つめていたら、自分がその桜の木に吸い込まれてしまいそうだ。


 僕はあわてて絵から目をそらして、あたりを見まわす。


 いつも通りの林。 いつも通りの風。 いつも通りの日差し。 それを全身で感じると僕は少しほっとした。 絵の外の世界は、何も変わっていない。


 僕はその場に立ったまま、しばらく継美が絵を描くのを見ていた。


 風向きが少し変わって、油絵の具の匂いが僕の鼻をつく。 絵を描いていないときも、継美はいつもかすかに油絵の具の匂いをさせていた。すっかり匂いが服にしみ込んでしまっているらしい。 それは決してきらびやかな匂いではなくて、むしろ地味な匂いだ。 桜のように派手じゃない。


 僕は後ろからゆっくりと継美に話しかけた。



 「・・・・あのさ、どしてこんなところで桜の絵を描いてるわけ? ここには咲いてる桜なんかないじゃないか」



 継美はしばらく黙ったままで絵筆を動かし続けていたが、ふとつぶやいた。



 「咲いてるよ。・・・・ほら、あんなにたくさん」



 継美の指が動いて、目の前の木々を指さす。


 そこには確かに桜の木があったけれど、花どころか、つぼみさえもなかった。 いまだに冬の名残りをとどめている、殺風景な桜の木。



 「桜の花なんて咲いてないよ。 まだ早いし」



 僕が言うと、継美はそれには答えずにまた絵筆を動かし始める。 僕の言うことなんて、聞いてもいないように。


 なんとなく居心地が悪くなって、僕は話題を変えた。



 「そういえば目白が言ってたんだけど、桜ってバラの仲間なんだってさ。 知ってた?」


 「・・・・うん、知ってる」



 継美は絵筆をパレットの上に置いて手を休めた。 さっきまで桜の花を塗っていた筆の先は、かすかに桃色の混じった白で染まっている。 今はまだ、まわりの風景とは違和感のある色。



 「両方とも派手だけど、桜とバラなんてぜんぜん似てないのにさ。 バラの仲間だなんて誰が言い出したんだろ」



 継美はゆっくりと僕の方を向いた。 油絵の具だらけになった茶色のエプロンの裾が、風になびいて揺れる。



 「刺があるよ」


 「刺?!」



 継美が唐突に出した言葉に僕は面食らった。 継美は僕の驚いた表情を見て、一瞬はっとしたように口をつぐんだ。



 「どういう意味だい? 桜には刺はないじゃないか」



 つめ寄るように言う僕に、継美はかたくなに口を閉ざす。


 僕は聞くのをやめてそのまま継美を見つめた。 しばらくして、継美はぽつりぽつりと話し始める。



 「・・・・バラはね、きれいな花のかげに刺を隠してる。 見るだけの人には何もしないけど、手を出そうとする人には鋭い刺で容赦なく攻撃して傷つけるの。 桜もバラの仲間なら、桜にも刺があるものよ。 目には見えないけれど、確実に相手を追いつめていく刺。 刺されていることさえ気が付かない刺 ── 」



 突然、僕たちの頭上の木の枝から鳥の羽ばたく音がした。 はっとして上を見上げると、黒い羽をした大型の鳥が、ひどく不つりあいな午後の柔らかい太陽と重なって、林の向こうに消えていく。


 継美はそれには全く関心を払わずに、じっと僕の後ろの木々を見続けている。 僕はため息をつくと、継美の方にピザまんの袋を差しだした。 軽くうなずいてピザまんを手に取る継美。


 僕もひとつ袋から出して、ピザまんの暖かさにかじりついた。


 寒さが緩んだとはいっても、じっとしていると足の方から冷たさが伝わってくる。 でも、日差しと風はもう春のもの。 冬と春との、最後の接点。 僕たちの高校生活の、最後の季節。



 「いつか、卒業なんかしないって言ったね。 どうしてだい」



 僕が言うと、継美はピザまんの最後のひとかけらを食べ終えてから、ぽつりと答えた。



 「うん、・・・・体育館がなくなってしまうから」


 「それだけで?」


 「そう」



 継美はそこで一旦言葉を区切って、物思いにふけるように目をつぶった。 すぐに目を開いたけれど、その目は遥か遠くを見つめているようだ。 いつか四人で帰ったときに見せた、あのさまようような視線。



 「・・・・来年もまた新しい生徒が入ってきて、あの体育館が取り壊されたあとに新しい体育館が建つわ。 でも、目の前で咲き誇っている桜を見て、去年咲いていた桜を思い返す人なんてひとりもいない。 みんな今のまぶしさに目を奪われて、過去のことなんて忘れてしまうの」



 林の中を、かすかな風が走りぬけていく。


 継美は右手を軽く上げて、風をつかむかのようにそっと指を曲げた。 その上を左手で覆って、指のすきまから風がこぼれるのを防ぎながら。


 その手をいつくしむようにして、継美は桜の枝を見上げた。



 「桜は嫌い。 一年のうちでほんのわずかな間しか咲かないくせに、一年じゅう人の心をひきつけるから。 今年の桜が終わってしまえば、みんなが追いかけるのは来年の桜というまぼろし。 来年の桜が咲くまで、ずっと未来への幻想を追いかけて過ごすんだわ。
 少しだけ立ち止まって後ろを振り向けば、道ばたの雑草が風にそっとそよいでいるのが見えるのに、そのわずかな時間さえも惜しむようにして、早足で先に向かって歩き続けるの。
 それをずっと繰り返して、はっと気がついたときにこう言うんだわ ── 『月日のたつのは早いもの』。
 わたしはそんなこと言いたくない。 わたしはそんなふうになりたくない。 先なんて見ないわ。 ううん、先に進んだりしない。 ずっと今のままの自分でいて、今この時にたたずんでいたい。 だからわたしは、わたしは ── 」



 継美はそこまで言うと、言葉をつまらせた。


 僕はどうしたらいいのかわからないまま、継美の横顔を見ていた。


 こんな継美を見たのは初めてだった。 継美は今まで、こんなふうに感情をあらわにしたことはなかった。 自分の感情なんかにかまっていられないくらい、道ばたの小さな花や、見向きもされない雑草を見つめ続けていた。 ひとりのときも、僕たちといっしょに歩いているときも。


 その時、前に読んだことのある文章がふと僕の心に流れだした。



  ── So I captured this fantasy, where all that we see or seem is but a dream within a dream.



 自分でも知らない間に口に出して言っていたらしく、継美が僕の顔を見た。



 「誰の詩?」


 「ポオさ。 『 ── だからぼくはまぼろしを受け入れたんだ。 ぼくたちの目に映るもの、いや、ぼくたちこそは、夢また夢の存在なんだよ ── 』 」



 継美が僕の目をじっと見つめる。


 継美の澄んだ瞳。 純粋に何かを追い求める瞳。 子供のような瞳。 そんな継美の瞳を見ていたら、どうして今まで僕は継美の視線が苦手だったのかがわかったような気がした。 継美の目は僕の心さえも見透してしまう。 それだけじゃなくて、すべてのものは継美の瞳から逃れることはできないに違いない。



 「ええと、もひとつ食べる?」



 僕は視線をそらしながら、継美にピザまんの袋をさしだした。



 「うん、ありがと」



 継美はビザまんを一つ取ると、両手で包み込んでひと口かじった。 僕は袋の中に残っている最後の一つを口にくわえて、からの袋をぐしゃぐしゃと丸めた。



 「最後に一つだけ聞いてもいい?」



 僕が聞くと、継美はまばたきして、こくんとうなずいた。



 「どうして継美が嫌いな桜の絵を描き上げたのか、不思議なんだけど」


 「この絵ね」



 継美はキャンバスのへりに手を置いた。



 「これは、あの部室にずっと置きっぱなしにしておくつもりで描いたの」



 「あの部室は、僕たちが卒業するとすぐ取り壊されるんだよ。 置きっぱなしにしといたら、がれきの下にうずもれちゃうんでない?」


 「それでいいの」



 継美は絵の具を片付けはじめた。 もう二度とここで使うことのない絵の具。



 「この絵はあの部室の、そしてわたしたちの高校時代の、見えない墓標だから」



 ── 墓標。


 僕は何もかも納得のいくような気がした。 あまりにもあっけなく過ぎ去ってしまった僕たちの高校生活の墓標には、何よりも桜がふさわしいかもしれない。


 今年もまた、新しい桜が咲くだろう。 来年も、再来年も ── そう、永遠に。


 さくら、桜、狂い咲け。



 「この絵も、もう終わり。 行こうよ、掛須くん」



 継美の声に僕ははっとして、あわててかばんと紙袋を持ち上げた。


 


 


 この日、飛鳥と目白に頼まれていたピザまんを食べてしまった僕は、卒業イブのお茶会で総スカンを食らったことは言うまでもない。


 


  


                      <FIN OF PART Ⅳ : TO BE CONTINUED TO LAST NUMBER





 


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丘の上の喫茶店のお茶会話
ほうほう・・・
最後どうなるんでしょう・・・・

マスター・・・一応パートのお仕事決まりました!!
なので、私にもピザまんをお祝いで下さい!!

何とか、家計の足しに出来るぐらいになりそうです。
もう貯金も底つきかけいるのでちょっと一安心・・・

継美さんは、夢多き人なんでしょうか。
それとも、現実を見定めているのかなぁ・・・

好きなタイプなんですが。

ひょっとして、マスターの当時の好みの女性ですか?
こんな女性がいいなぁ・・・とか想いながら書いてたんでしょうかね・・・・

早く最後が見たい!
【2007/03/05 23:38】 URL | okannno-nikki #- [ 編集]

懐かしい感じ。。。
>それから、中間・期末テストの答案がぞろぞろ出てくる。 
全部点数が記入してある端を三角に折り曲げて友達に見えないようにしてある。

私も同じ事してました~。懐かしい(笑)。

継美ちゃん、ピザまん、一気に2個!
さすが、高校生!

桜の刺ですか・・・難しいですね。。。
私は、雑草も、桜もどちらも好きだし、
命の輝きは同じように感じるから。

最後、どうなってしまうのでしょうか。
気になります。
【2007/03/06 22:20】 URL | あおい。 #- [ 編集]

okannno-nikkiさん
こんばんはーe-423

お仕事決定、おめでとうございますv-308v-315
また、これからが大変ですね。
がんばってくださいv-82

okanno-nikkiさんの就職にあやかって、ご主人も、全快v-91されるといいですね!


>ひょっとして、マスターの当時の好みの女性ですか?

うーん、うーん、なにしろ昔の話なもので…ハテv-388(逃)
たぶん、好みとは違ったと思いますv-289
あんまり、女性に好みとかこだわりはないです。
その人らしさが出てればv-252ってナニ言ってるんだろう…(逃亡)

【2007/03/07 00:25】 URL | カケス #Hte2UAXI [ 編集]

あおいさん
こんばんはーe-239

そうそう、テスト用紙は、角を三角に折るのが正しい作法ですe-158
よーく見ると、点数を描くところに、斜めに「----- 谷折り線 ----- 」が印刷されてますから(嘘ですよv-358

ピザまん…育ち盛りですからv-45女性陣も、ご遠慮なくv-411


> 私は、雑草も、桜もどちらも好きだし、命の輝きは同じように感じるから。

うーん、なるほど、さすが、あおいさんv-219名言ですね。
その感性…どうぞ、いつまでも、大切にしてくださいv-22
そんな心を持つ人は、他人にも優しくなれますし、きっと幸せになれますv-354
【2007/03/07 00:41】 URL | カケス #Hte2UAXI [ 編集]



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